結論

「いくら使ってよいか」ではなく「いくら残すか」から決めてください。残す額を先に確定させ、その残りで住み替えの予算を組む順序にすると、備えが削られません。

当てはまるのは、退職金を受け取っている、または受け取る予定があり、住み替えを検討している場合です。

例外:退職金以外に十分な手元資金がある場合、この記事の制約は緩みます。ただし「残す額を先に決める」という順序自体は変わりません。

この記事で扱わないこと

  • 金融商品・保険商品の推奨(運用の助言は行いません)
  • 税務の判断(退職金の課税、住み替えに伴う税金の計算はいずれも扱いません。税務署・税理士にご確認ください)
  • 具体的な金額の提示(世帯の状況で大きく変わります)
  • 資産運用に関する助言

なぜ「残す額」から決めるのか

予算に合わせて手元資金を削る順序にすると、備えが最後に削られるからです。

よくある順序:

  1. 住み替え先の候補を見る
  2. 気に入った物件の価格が分かる
  3. 足りない分を退職金から出す
  4. 結果的に、手元にいくら残ったか後から気づく

3の段階で「あといくらなら出せるか」を考えると、判断が物件に引っ張られます。気に入った物件があるほど、手元資金を削る方向に傾きます。

正しい順序:

  1. 手元に残すべき額を決める
  2. 退職金 − 残す額 = 住み替えに使える額
  3. その金額の範囲で選択肢を絞る
  4. 予算内の物件だけを見る

4が重要です。予算を超える物件を見ないことが、判断を守る唯一の方法です。


手元に残す額を決める4つの観点

金額は世帯によって違います。ここでは「何を数えるか」を示します。

1. 医療・介護で必要になる可能性のある資金

予測はできませんが、ゼロではありません。

考えること:

  • 入院や治療が必要になった場合の自己負担
  • 介護が必要になった場合の費用(在宅・施設のどちらか)
  • 配偶者と自分、両方の可能性

この項目を「起きないもの」として計算から外さないでください。

2. 住み替え先でも発生する修繕・更新の費用

住み替えたら維持費がゼロになるわけではありません。

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住み替え先 継続的にかかるもの
中古マンション 管理費・修繕積立金(値上がり前提)、専有部の設備更新
中古戸建て・平屋 周期的な修繕(外壁・屋根・設備)
賃貸 家賃・更新料

特に中古マンションの場合、購入時に築年数が進んでいれば、専有部の設備更新が数年以内に来ます。購入価格だけでなく、その後の費用を見込んでください。

▶ 中古マンションの管理費・修繕積立金で確認すべきこと ▶ 戸建て維持費シミュレーター

3. 配偶者が一人になった場合の生活費

世帯の収入は、どちらかが亡くなった時点で変わります。

  • 年金の受給額がどう変わるか(ねんきんネット等で確認してください)
  • 一人になった後の生活費
  • その状態で、住居費を払い続けられるか

マンションを購入した場合、管理費・修繕積立金は一人になっても同額です。この点を計算に入れてください。

4. 想定外の支出

家族の事情、自然災害、物価の変動。予測できないものへの備えです。

具体的な金額は決められませんが、「ゼロにはしない」という原則だけは守ってください。


退職金を使う場合の考え方

借入を減らすために使う

60代の住宅ローンは、完済時年齢の制約で借入期間が短くなり、月々の返済額が大きくなります。

退職金を頭金に充てて借入額を抑えると、月々の負担が下がります。年金収入で返済が続けられるかを基準に、頭金の額を決めてください。

▶ 60代で住宅ローンは組めるか

借入せずに済ませるために使う

売却代金+退職金で住み替え先を賄えるなら、借入をしない選択肢が最も確実です。

ただし、そのために手元資金を使い切らないでください。借入がないことと、手元に何も残らないことは別の問題です。

使わないという選択

住み替えの規模を下げて、退職金を温存するという判断もあります。

  • 中古で、より価格を抑えた物件を選ぶ
  • 面積を小さくする
  • 賃貸を選ぶ(まとまった資金が不要)

「予算に合う住み替え先がない」場合、住み替えないという結論も選択肢です。今の家に改修して住み続ける方が、総額として合理的なことがあります。

▶ バリアフリー改修の優先順位 ▶ 住み替える人・住み続ける人を分ける6つの条件


確認の順序

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順 やること 使うもの
1 年金の受給見込額を確認する ねんきん定期便/ねんきんネット
2 手元に残す額を決める(上記4観点) —
3 今の家の手残りを計算する 査定+残債+諸費用
4 住み替えに使える総額を出す 手残り +(退職金 − 残す額)
5 住み替え後の月次収支を試算する 資金計画シート
6 予算内の選択肢だけを見る —

2を1より先にしないでください。年金の見込みが分からないまま残す額を決めても、根拠がありません。

▶ 住み替えの資金計画:売却代金・退職金・年金の組み立て方


相談先

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相談先 相談できること
ねんきんダイヤル・年金事務所 年金の受給見込額
ファイナンシャルプランナー 資金計画と生活設計の整合性
税務署・税理士 税金がかかるかどうか

金融機関や不動産会社の担当者の説明を、資金計画の最終判断にしないでください。それぞれ自社の商品・サービスを前提とした助言になります。

執筆者

河田邦昭かわた くにあき

1987年生まれ。千葉県で育ち、東京都を経て現在は神奈川県在住。戸建てとマンションの両方を購入し、県をまたぐ住み替えを2度経験しています。不動産・税務の資格は持っていません。

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